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鹿児島家庭裁判所 昭和42年(家)26号 審判 1968年7月25日

申立人 平野幸子(仮名)

相手方 上山洋祐(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

(一)  申立人は、「相手方は、申立人に対し財産分与として金五〇万円を支払え。」との審判を求めた。

(二)  申立人と相手方は、昭和四〇年三月末申立人実家のある○○市において挙式のうえ婚姻(届出同年四月一日)し、相手方勤務地(中学校)である○○○市に帰り、相手方両親および義弟妹の住む家屋の一室において夫婦生活を始めたが、間もなく申立人も市内中学校教員の職を得ていわゆる共稼ぎ夫婦となつた。ところが、申立人は、性格的に明朗闊達な行動型である一面自説を固持する強いところがあつたのに反し、相手方は、内向的閉鎖的な性格であり、共稼夫婦であるという事情も手伝つて家政処理の一切について申立人に相談せず、実母サトに委せ、申立人の立場を無視するような態度であつたため、結婚後数ヵ月を出ずして破綻のきざしをみるに至つた。しかも、相手方両親と申立人との生活感情のゆきちがいが、それに一そう拍車をかけけた。申立人および相手方が当裁判所に提出した詳細な書面をみると、各自がそれぞれ反対配偶者に対して抱く行為の評価ないし非難は、それぞれの立場においては一応理由のあるところであるが、結局は、双方の性格ないし生活感情の疎隔に基因する誤解であるといわさるをえない。したがつて、相互の間に横たわるこれらの感情的な溝は、解消不可能な不信行為によるものではなく、夫婦が協力して家庭を築くため、誠意を尽して話し合い、努力を重ねることによつて解消することは、充分に可能であつたといわなければならない。ところで、申立人および相手方は、結婚以来一年半後の昭和四一年一一月九日協議離婚するに至つたが、当裁判所は、一切の事情に徴し、本件離婚の原因は、双方の性格不一致に基づくものであり、その責任を当事者の一方に帰するのは妥当でないと考える。

(三)  ところで、財産分与の制度は、離婚に際して夫婦の実質的な共有財産の清算処理をなすことを中核とし、その際離婚により不利益を受ける当事者に対し、離婚後相当の生計を維持するに足る財産を与えることおよび離婚に伴う精神的損害の賠償をも企図したものというべきであるが、本件においては、離婚に至つた原因を当事者の一方に帰することができないこと前記のとおりであり、かつ婚姻の継続期間も僅か一年半にすぎず、申立人は、○○県立短大体育科出身で教員資格を有し、離婚後○○県内において再就職したことが認められるから、本件財産分与は、純粋に共有財産の清算的な側面を考慮すれば足りるものと考える。

(四)  調査の結果によれば、当事者双方が婚姻生活中協力して得た財産と認められるものは、カーテン、ハンガー、アイロン台、ポリバケツ等の家財道具のみであつて、その購入価額の合計は僅か一六、〇〇〇円程度であり、これらの購入時期は、昭和四〇年四月から九月までであつて、双方が離婚した昭和四一年一一月まで一年余の間双方が使用してきたもので、その間の使用に伴う損耗を考慮すると、離婚当時の上記家財の現価は極めて僅少といわさるをえない。さらに、申立人は、婚姻期間中、相手方が価額一七〇万円をもつて鹿児島市坂元町の宅地および建物を購入した点についても夫婦の協力によるものとして財産分与の対象とみているようである。しかしながら上記不動産の購入につき資金の一部一〇万円を申立人実家から融通をうけたことがあるけれども、この分についてはすでに他からの借り替えにより返済ずみであり、結局購入資金は一部実父から援助をうけたものを除き、相手方が勤務先の互助会等から借り入れ、今後一〇年間の月賦償還(俸給から控除)債務の負担により賄われるものである。したがつて、本件不動産取得の時期が、双方の婚姻期間中であり、かつその動機が婚姻生活の住居を得ることにあつたとしても婚姻継続の期間、本件不動産が将来にわたる多額の債務を負担している事情を考慮すると、上記財産形成に対する申立人の寄与もまた僅少なものといわなければならない。

(五)  よつて、当裁判所は、一切の事情を考慮し、本件申立を却下するのを相当と認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 橋本享典)

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